工芸の健康診断/3月12日

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手を必要以上に加えないことが正しいとして
それでも手を動かしている時間は好きだ。
様々な工程をひとつひとつ、石ころ積み上げていくみたいに
バランス崩さないように慎重にかつ自然体で仕上げていく。
靴づくりを心から楽しめている。

先日の高木さんのお話会で
何十年も前に、島根民藝協会初代会長の太田直行氏が
「地方の工芸を守り育てていくために工芸の診察が必要だ」と提唱したことを取り上げていた。
当時は民藝運動の中心人物である柳宗悦を招き、健康なもの、健康に回復し得るもの、そうでないものに分けたという。
現代は毎年開催している「日本民藝館展」で評価を受けることがその健康診断になっているようだった。

僕も数年前にジャパンレザーコンテストみたいなものに出品したことがある。
【CRAFT】を作り始めたころで、
今思えば、この靴が「健康なものなのか、その見込みはあるのか、不健康なものなのか」診察してほしかったのだと思う。
結果は名もなき一般の方からの一筆箋のみだったけれど、
「心地よさそうな靴だと思いました。足に悪い母に履かせてあげたいと思いました」と。
このお手紙が現在までCRAFTを作り続けてきた大きな原動力になった。

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修理の仕事。

高木さんは福岡で工芸店を営んでおり
「お皿をつかってくれる地元飲食店は素晴らしいパートナーだ」という。
そこでお皿がたくさんの人に試され、お皿が育っていく。そして欠けたり割れたりする。
それが工芸店、そして作り手にフィードバックされる循環を大切にしていると。
またバイトのこが割ってくれるから(笑)また買ってくれる(笑)という経済の循環も大事だと。

靴も履いてくれるお客様は素晴らしいパートナーだ。
この靴も修理を重ねて、その度にどんどん育っていく。
モノが育つということは、それを使う人も作る人も育っている。
これはまぎれもなく健康のしるし。生きているしるし。幸せのしるし。

2024.3.12山のアトリエ