素材の気持ち/5月11日 百掌往来メモ

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今日の仕事。

黒染色ののタンニン鞣し革はブラウンよりもだいぶ硬い。
4足つり込むだけで、手首がビリビリと痛む。
これが毎日ならあっという間に慢性腱鞘炎になってしまう。
修行時代、ずっと手首は腱鞘炎でサポーターが必要だったことを思い出した。

でも同じように仕事をしているはずの師はいつも平然と仕事をしている。
手の力は僕の方が絶対の強いはずなのに、つくるスピードも師のほうが早い。
力む仕草もほとんど見えず、動きがいつも同じ速度で
大河の流れのように静かに滑らかに悠々としていて
別に競っているわけではないけれど、気付くとあっとう間に仕事が進んでいる。

力任せに手を動かしていては、
良い仕事はできない。続かない。
身体も壊れる。

素材をもっと丁寧に扱うことだ。
どのくらいの湿度で、どのような順番で
どの角度で、どの位置で、どの力で、
素材に耳を傾けて
師のように呼吸を深くしよう。

それができたら「手づくり」とは呼べない領域。
手は対象を動かすものではなく
対象に動かされている。
もちろん、皮は革になりたいわけではないし
革は靴になりたいわけじゃない。
でもだからこそ、素材の声はちゃんと聞いてあげないと。

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