妻の足と靴/10月6日

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「ここ最近、洋服づくりが愉しそうだね。その服も素敵だね。」
「靴はもう智さんがつくってくれる履き心地に満足しているんだと思う。
だからそれより服。本当に着たい服がないからね。」

白い靴はこの夏に作っていた靴で、
恵子さんに履いてほしいと思っていたけれど
それに合う服がなかったこともあって、しばらく棚に飾ってあった。
今日新しくできたインディゴのパンツに「ちょうど合う!」と
嬉しそうに履いてくれて隣で仕事をしていた。

それがとてもとても美しくて
しばらく見惚れて手が止まってしまうほどだった。

改めて、僕は彼女のために靴をつくれることの幸せをかみしめた。

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数か月前から恵子さんの歩く仕草に違和感を感じることがあった。
ちょっとしたことで、その日のうちに忘れてしまっていたけれど
ずっとどこかに残っていたらしい。
というのも、先日、同世代の友人と電話で話している時に
その友人が「最近また外反母趾が痛くて、なにか良い対処法があるかな?」と聞かれた時に
僕は「恵子さんも最近すこしアーチが下がって足が広がってきたんですよ。
それが気になっていて、姿勢の悪化、筋力の低下もあると思っているんです。
で、これは誰にでも起こりえることだと思ったんです。」と、スラスラと言葉が出てきて
ずっとうっすら感じていた違和感の正体がわかって。

電話を切った後、それを横で聞いていた恵子さんが
「よくわかったね。すごいね。ずっと言わずにいたのに。だてに靴屋さんやってないね(笑)」
と珍しく感心していた。
「そりゃあ本職ですからね。動きがなんだか変だったんだよ。かばう動きだったんだね。スッキリした。」と
ちょっと得意気になってしまう僕。

白い靴は見た目だけでなく、履き心地もすごく気に入っているようだった。
10年近く履いてきた恵子さんのCOMMONはだいぶ緩くなってきて
開帳足の足には良くなかった。
新しい靴は、幅も適度な締まり感があって足をサポートしてくれている。

「今度はこの木型でブーツが欲しいなぁ」とこれまた珍しくリクエストを頂いた。
好きな人にオネダリされることは、こんなにも嬉しいことなのだろうか。なんて幸福感だろう。

タイミングが合うことはとても重要だ。
こちらとあちらで手を差し出すタイミングをちょうど合わせるには
その手を確認してからでは遅い。
掛け声で合わせることも違う。
長年夫婦をやってきても、すれ違うことばかりだ。
でも白い靴のように、ボタンの掛け違いみたいにヒトツズレていても
次々とハマっていくこともある。
紺のパンツだって、無自覚でも白い靴があるからつくったのかもしれない。
妻が隠した不調だって、本人よりも僕のほうが違和感を感じている。

僕らは互いに影響しあって生きている。
ボタンもボタンホールがなければ、ただの石ころ。
ボタンホールも、ボタンがなければ、ただの虫食い穴。
僕はあなたで、あなたは僕。